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生成AIにおける
ラストワンマイル問題

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投稿者: Sanka 創業者 兼 CEO 金海寛(キム ヘガン)

最終更新日: 2023年7月11日

生産者から消費者へ商品が届けられる最終段階で起こる課題を、物流の世界では「ラストワンマイル問題」と呼ばれています。

物流の最終段階、つまり流通センターから消費者への商品配送は、距離にすると最短であるにもかかわらず、交通規制、配達先における制限、消費者が求めるサービスレベルが要因となり、最も高コストで複雑な領域です。

今日、似たような「ラストワンマイル問題」が、生成AIの分野でも浮上しています。

生成AIにおけるラストワンマイル問題

Sankaでは、大型言語モデル(LLM)が他のアプリと連携して、実世界のタスクを遂行する際に生じる課題を、生成AIにおける「ラストワンマイル問題」と定義しています。

生成AIは、OpenAIのGPT-3/4やそのアプリケーションChatGPTを筆頭に、テクノロジーの世界だけではなく、全世界で急速に普及されました。ChatGPTはローンチからわずか2ヶ月でアクティブユーザー1億人に到達するという、記録的な偉業を達成しています。

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しかし、これらのLLMは、物流における「ラストワンマイル問題」に似たように、タスクの最終段階(=アプリケーションとの統合とタスクの実行)で多くの課題を抱えています。

chatGPTは、まさに人間が書いたようなテキストを生成できますが、現実世界の作業を終えてくれるような機能はありません。ChatGPTに対してホテルの予約やプレゼントの購入を依頼しても、タスクを完了できるわけではありません。

より技術的に言えば、ウェブサイト、API、またはシステムとのインターフェースが欠乏しています。利用者は生成されたテキストを手動でアプリケーションにコピーペーストする必要があり、これは生成AIの実用性を大幅に制限する不便な点でしょう。

この課題を解決するために、LLMアプリは最近、「プラグイン」と呼ばれる機能を導入しています。これらは基本的には「チャットアプリ上のアプリ」であり、すでにOpenAIのChatGPT、GoogleのBard、MicrosoftのBingなどでプラグインが試運転されています。

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しかし、特にサードパーティの統合において、プラグインのユーザー体験は優れているとは言いがたいでしょう。

これらのプラグインはまだベータ版となり、今後数週間で改善される可能性がありますが、連携に関する課題を完全に解決するには、まだ越えるべき壁がいくもあります。

例えば、プラグインの開発は、主に以下のデータで構築されます。

  • マニフェストファイル:プラグインのメタデータとコマンドをトリガーする方法やタイミングを説明したもの(多くの場合JSON形式)
  • APIドキュメント:コマンドを実行するための機能とエンドポイントを説明した資料

この設計は、かなり限定的なものであり(私たちはこれを「Shallow Integrations」 「浅いインテグレーション」と呼んでいます)、優れたユーザー体験に必要なインターフェースのコントロールや、他のプラグインとの連携サポートもありません。

また、LLMはプラグイン開発者が提供するドキュメントから大量の情報を読み込む必要があるため、単純なプロンプトに対しての返答に10秒以上かかる場合があります。

結果、プラグインを使ったLLMアプリは、実行能力に限界がある、ただの遅いチャットボットになってしまいます。

Screenshot 2023-05-25 at 19.52.21.png a tweet by Jakob Greenfeld

""" ChatGPTのプラグインを試してみたんですが、誰も本気で使っているとは到底思えません。全てが遅すぎて、エラーが多すぎます。

他のAIツールと同じく、全てがハイプ(誇大広告)で、実質的な価値は少ないです。"""

大きなニーズ

この記事は、生成AIの欠点をあげつらい、悲観的な視点を述べるものではありません。むしろその逆です。

ChatGPT、Bard、AnthropicのClaudeのようなAIツールの可能性は膨大で、Bill Gatesも最近のオピニオン記事で重要性を強調しています。Gatesは生成AIがもたらした革命を、1980年のグラフィカルユーザーインターフェースと比較し、仕事、教育、医療、コミュニケーションといった様々な分野で、今後数十年にわたり大きな変化が起こると予測しました。

AIツールの商業的影響も明らかです。ChatGPTだけでも2023年に2億ドル、2024年には10億ドルを稼ぐと予測されています

人々はすでに、メールの作成から作文の自動化、ニュースサイトのコンテンツ生成まで、LLMツールを利用してさまざまなタスクを遂行しています。プラグインの市場規模は、さらに大きくなる可能性があるでしょう。

しかし、すでに説明した通り、この革新的な技術は、LLMが日常的に使われるアプリと連携する際に限定的なものとなります。大きなニーズが、今この領域で生まれているのです。

こうした背景から、ラストワンマイル問題を解決することが、生成AI時代の最大のビジネスチャンスなると、我々は考えています。

Amazonが物流におけるラストワンマイル問題を解決して、ECの覇者になったように、我々は、次の十年で成功する企業は、生成AIのラストワンマイル問題を解決して、AIの可能性を完全に引き出し、数兆ドル企業に成長していくだろうと予想しています。

そして、その競争はすでに始まっています。

今週行われたMicrosoft Buildでは、Windows Copilotが発表されました。今後生成AIは、孤立したチャットツールではなく、我々の日常的なアプリケーションにシームレスに統合され、我々の行動を学習し、サポートしてくれるような存在になっていくでしょう。

Sankaとして

ビジネスチャンスはMicrosoftのような大企業だけに限られたものではありません。

SaaSやその他のテック企業は、自社のテクノロジーを活用することで、比較的早くLLMのプラグインを構築できます。

クリエイター、中小企業、学生たちも自分たちのニーズに合わせたプラグインを構築していくでしょう。LLMアプリのユーザー数(すでに1億人以上)を考慮すると、この流れは今後も加速されていくように思います。

Sankaでは、iPaaS・自動化プラットフォームとして、他社とは少し異なる生成AIに対するアプローチを取っています。以下、我々の戦略を簡易的にご紹介します。

  1. できる限り多種多様なワークフローを開発し、実世界のタスクを効率的に実行できるようにする。

  2. 1で作ったワークフローを生成AIモデルと連携・統合し、ラストマイル問題を解決できるようなAIツールを大量生産する。これらの自動化サービスは、LLMアプリ上で実行できる「プラグイン」にもなります。

  3. 2で得た実世界の結果をAIモデルにフィードバックすることで、プロンプトの改善やファインチューニングを行い、タスクに特化された独自のAIモデルを開発していく。

これらのプロセスを無限に回すことで、Sankaをより信頼性・利便性の高いものにしていくことが、弊社の中長期的なゴールであります。

OpenAIの共同創業者・CEOのSam Altmanは、LLMとエンドユーザーの間に今後生まれてくるであろうAIサービスの「ミドルレイヤー」(中間層)の重要性を強調しています。

Sankaも似たような未来を見据えており、LLMのポテンシャルをビジネスの現場で引き出せるようなツール・AIモデルを開発していこうと考えています。

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生成AIのラストマイル - パンドラの箱か、黄金の卵か

大きな可能性には、大きな責任が伴います。

私たちの日常的なアプリケーションやシステムと深く接続できるLLMは、有害なプログラムを実行したり、重要なデータを盗んだりする可能性があります。

AIの潜在能力はとてつもなく大きく、経済を推し進めるイノベーションになるか、人類を破滅させるカタストロフィにもなるかは私たち自身にかかってると言えるでしょう。

まずAI開発者は、生成AIを開発し実装するにあたり、必要なモニタリングや規制を設けることで、デメリットよりもメリットがはるかに大きくなるようにする必要があります。

また、ビジネスリーダー、AI研究者、政策決定者、そして一般市民が声を上げ、重要な課題に関してはオープンで建設的な場で徹底的に議論し、AI利用におけるコンセンサスをとっていくことが求められるでしょう。

Sankaは(特にラストマイル問題を解決する生成AIツールが)人類に巨大な利益をもたらすと信じています。

なぜなら、AIの進化を加速させていくことで、人類の可能性を最大限に引き出すだけでなく、AGIを含む次のイノベーションの波を呼び込むことにもつながるからです。

夢に見た未来はもう、手の届く範囲にあります。

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