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資材所要量計画(MRP)究極のスタートガイド

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最終更新日: 2025年1月15日

製造業において、在庫管理と生産スケジュールの最適化は常に大きな課題です。

「在庫を減らしたいけど、欠品は避けたい」「生産計画を効率化したいけど、どう始めればよいかわからない」「多品種少量生産なのに在庫が多すぎる」

そんな製造現場の悩みを解決するのが資材所要量計画(MRP:Material Requirements Planning)です。

近年、製造業を取り巻く環境は急速に変化し、需要の変動も激しくなっています。そのため、従来の経験や勘に頼った在庫管理では立ち行かなくなってきました。MRPは、こうした課題に対して、データに基づいた計画的なアプローチを提供します。

本記事では、MRPの基本概念から具体的な導入手順、さらには実際の運用方法まで、実践的なアプローチを分かりやすく解説していきます。

既に導入を検討している方はもちろん、まだMRPについてよく知らないという方にも、役立つ情報を提供できればと思います。

MRPとは?基本概念と目的

「必要な資材を、必要な時に、必要な量だけ」これがMRP(資材所要量計画)の基本理念です。

製造業にとって、在庫管理は常に頭の痛い問題です。在庫が多すぎれば保管コストがかさみ、資金が無駄に眠ってしまいます。逆に少なすぎれば、生産が止まってしまうリスクが高まります。MRPは、このジレンマを解決するために生まれたシステムです。

では、MRPは具体的にどのように機能するのでしょうか。まず、お客様からの注文予測を基に、いつまでに何個の製品を作る必要があるのかを把握します。

次に、その製品の設計図にあたる部品表(BOM)から、必要な部品とその数量を割り出します。そして、現在の在庫状況や既に発注済みの部品の納期を確認し、「いつ」「何を」「どれだけ」発注すべきかを計算します。

例えば、来月100台の製品を作る予定があり、1台あたり10個の部品Aが必要だとします。現在の在庫が300個、発注済みが400個あれば、追加発注は必要ありません。

しかし在庫が200個しかなければ、部品の納期を考慮して適切なタイミングで発注する必要があります。

MRPは、すべての部品に対してこのような計算を自動的に行い、最適な発注計画を立てます。特に、多品種少量生産を行う企業や、季節による需要変動が大きい企業にとって、MRPは非常に頼れる存在です。

複雑な生産環境で手作業による在庫管理が難しい場合でも、MRPを活用することで、効率的な資材管理が可能となります。

単なる在庫管理ツールではありません。企業の生産活動全体を最適化し、ムダを省きながら必要な在庫を確保する—そんな戦略的なシステムとして、製造業の現場で活躍しています。

MRPの種類と選択のポイント

製造業におけるMRPシステムは、企業のニーズや規模に応じて選択できるよう、様々な形で提供されています。大きく分けると3つの選択肢があり、それぞれに特徴があります。

項目 大規模統合型(ERP型) オンプレミス型 クラウド型
特徴 基幹システムの 一部として統合運用 自社内でサーバー 設置・運用 インターネットで利用
機能 多機能で連携性が高い カスタマイズ自由度 が高い 標準機能が中心
コスト 高額 中~高額 低額
運用管理 自社で管理 自社で管理 ベンダーが管理
適した企業 大企業 中堅~大企業 中小企業
メリット 業務の完全統合が可能 自社仕様に合わせやすい 導入が早く初期費用が 少ない
デメリット 導入に時間とコストが必要 運用負担が大きい カスタマイズに制限あり

※導入期間は企業の状況(データ整備、組織体制、システム環境など)により大きく異なります。

3つの選択肢を詳しく解説

1. 大規模統合型(ERP型)

SAPやOracleなどが提供する基幹システムの一部としてMRP機能が組み込まれているタイプです。会計、販売、生産、人事など、企業の基幹業務を一つのシステムで統合管理できます。
データがリアルタイムで連携されるため、例えば受注情報から即座に必要な部品の発注計画が立てられ、その発注額が会計システムにも自動反映されます。

多機能である分、導入には時間とコストがかかりますが、グローバル規模での在庫・生産管理が必要な大企業での採用実績が豊富です。

2. オンプレミス型

自社内にサーバーを設置し、独自の業務プロセスに合わせてカスタマイズしたシステムを運用するタイプです。例えば、特殊な生産工程や独自の在庫管理ルールがある場合でも、それらに完全に適応したシステムを構築できます。

また、他社に知られたくない製造ノウハウなども自社内で管理できます。ただし、サーバーの維持管理やシステムの保守といった運用負担は自社で担う必要があります。独自性の高い製造プロセスを持つ中堅・大企業に適しています。

3. クラウド型

インターネットを通じてMRPシステムを利用するサービスです。専用のサーバーやシステムを自社で持つ必要がなく、月額料金を支払って利用します。

スマートフォンやタブレットからもアクセスでき、在庫データの入力や確認が現場でも可能です。大規模な初期投資が不要で、導入期間も短いのが特徴です。ただし、カスタマイズできる範囲は限定的です。標準的な在庫管理や生産管理で十分な中小企業に適しており、成長に応じてシステムを拡張していけます。

これらの選択肢はそれぞれに特徴があり、企業の規模や業務内容、予算、将来の成長計画などを考慮して選択する必要があります。また、一つのタイプに限定せず、例えば主要拠点では大規模統合型、小規模拠点ではクラウド型というように、使い分けることも可能です。

MRP導入のためのステップバイステップガイド

MRPは、製造業で資材や部品を適切なタイミングで確保し、在庫を最適化するためのシステムです。導入により、過剰在庫や資材不足を防ぎ、生産の効率を向上させます。特に、多品種少量生産を行う企業や在庫管理に課題を抱える企業に効果的です。

1. 導入準備フェーズ

1.1 現状分析

  • 在庫管理の現状把握(在庫回転率、欠品率など)
  • 生産計画の立案方法の確認
  • 発注業務の流れの整理
  • 問題点・課題の明確化

1.2 データ整備

  • 在庫データの精度向上(目標95%以上)
  • 部品表(BOM)の作成と検証
  • 標準リードタイムの設定
  • 安全在庫水準の設定

2. 計画策定フェーズ

2.1 基礎データの作成

  • 過去の需要データ分析
  • 生産能力の詳細把握
  • 各工程のリードタイム測定
  • 発注ロットサイズの最適化

2.2 試験運用準備

  • Excelによる計算ロジックの構築
  • 発注点方式のシミュレーション
  • 所要量計算方式の検証
  • 運用ルールの文書化

3. システム選定フェーズ

3.1 要件定義

  • 必要機能の詳細リスト作成
  • システム規模の決定
  • 投資対効果の算出
  • 運用体制の検討

3.2 システム評価

  • ベンダー選定と比較
  • 費用対効果の検証
  • 既存システムとの連携テスト
  • 導入スケジュールの策定

4. 導入実行フェーズ

4.1 段階的導入

  • パイロット部門での試験運用(1-2ヶ月)
  • 問題点の洗い出しと改善
  • 運用手順の最適化
  • 本稼働計画の策定

4.2 本格運用開始

  • マスターデータの一括登録
  • 担当者への教育訓練実施
  • 運用マニュアルの整備
  • システム切り替え作業

5. 運用・改善フェーズ

5.1 日常管理の確立

  • 在庫データの日次更新
  • 発注点の定期見直し
  • 生産計画との連携強化
  • 異常値の早期発見体制

5.2 継続的改善活動

  • KPI(在庫回転率、欠品率等)の測定
  • パラメータの最適化
  • 運用ルールの改善
  • 担当者からの改善提案収集

6. 評価・最適化フェーズ

6.1 効果測定と分析

  • 在庫削減効果の測定(金額・数量)
  • 生産効率の向上度合い確認
  • 労働時間削減効果の算出
  • 投資回収状況の確認

6.2 システムの最適化

  • 運用パラメータの微調整
  • 新機能の追加検討
  • 業務フローの見直し
  • 次期改善計画の立案

完璧な準備より、着実な一歩を。MRP導入の成功は、このステップバイステップを確実に実行し、現場の声に耳を傾けながら、継続的な改善を重ねていくことにあります。

資材所要量計画(MRP)のメリットとデメリット

MRPの導入によるメリット

MRPの導入は、在庫管理や生産スケジュールにおいて多くのメリットをもたらします。

まず、最も大きな利点は在庫削減です。MRPを活用することで、必要なタイミングで必要な資材のみを発注できるようになるため、過剰在庫を抱えるリスクが大幅に減少します。これにより、在庫コストの削減に貢献します。

また、MRPは生産スケジュールを最適化するための強力なツールです。

部品や材料の供給タイミングを計画的に管理できることで、納期の遵守が容易になり、生産ラインの停止や遅延を防ぐことができます。

特に需要が変動する製造業においては、MRPの計画機能が安定した生産活動の実現をサポートします。

在庫管理とコスト削減の効率化

在庫管理の効率化は、MRPが持つ大きな利点の一つです。製品ごとに必要な部品の数量や調達時期が計算されるため、在庫過多や不足が減少し、無駄な在庫コストを削減できます。

また、適切なタイミングで発注が行えるため、仕入れのコストも最小化できます。さらに、MRPを利用することで、棚卸や在庫確認の作業も簡素化され、管理業務の負担が軽減されます。

生産スケジュールの最適化

正確な生産スケジュールを立てるための手助けをします。製品ごとに必要な資材を必要なタイミングで揃えることで、計画通りの生産が進行し、納期を守るための基盤が整います。

特に、MRPが生産スケジュールと連動することで、急なオーダー変更や生産ラインの調整にも柔軟に対応できるようになります。

このように、MRPは納期遵守と生産性向上において欠かせない役割を果たします。

MRPのデメリットと課題

MRPの導入にはコストやデータ管理に関するデメリットも存在します。まず、導入コストや運用に必要な費用は少なくありません。

特に中小企業にとっては、高額なシステム導入が財務的な負担となる場合があります。また、MRPの運用には正確なデータ入力が不可欠であり、データの整備や精度を保つことが課題となります。

導入コストや操作の難しさ

MRPシステムは高度な機能を持つ一方で、操作が複雑なため、システムの導入には従業員のトレーニングが必要です。

さらに、初期導入費用が高く、システムの運用管理費用も発生するため、特に資金が限られている企業にとっては負担が大きくなります。こうしたコストの面でのハードルは、MRP導入の際に考慮すべき重要な要素です。

データの精度への依存と改善の方法

運用では、データの正確さがシステム全体の精度を左右します。在庫状況、部品の供給リードタイム、需要予測などのデータが正確でなければ、MRPが計算する所要量に誤りが生じ、在庫不足や過剰発注を引き起こす可能性があります。

データ精度を向上させるには、定期的なデータの更新や在庫の確認、サプライヤーとのコミュニケーションが欠かせません。

MRPを効果的に活用するためのポイントと成功事例

部門間の連携強化とコミュニケーションの重要性

MRPを効果的に活用するためには、部門間の連携が非常に重要です。

MRPシステムは、製造、購買、在庫管理、さらには営業部門など多くの部門に影響を及ぼすため、それぞれが共通の目的に向かって連携することが不可欠です。

生産スケジュールや在庫管理が成功するかどうかは、各部門が同じデータを共有し、必要なタイミングで情報を提供する体制が整っているかにかかっています。

製造部門が生産スケジュールに変更を加えた場合、それに応じて購買部門は必要な部品を適切なタイミングで調達する必要があります。

このように、部門間で情報をリアルタイムに共有することで、MRPシステムを通じた計画の精度が向上し、スムーズな業務運営が実現します。

製造業におけるMRPシステム活用の成功事例

先に説明した3つのMRPシステム(大規模統合型、オンプレミス型、クラウド型)の中から、各企業は自社に最適なものを選択し、成果を上げています。ここでは、その具体的な事例を紹介します。

【T社のかんばん方式とMRPの融合による成功事例】

大規模統合型(ERP型)のMRPを採用し、独自のかんばん方式と効果的に組み合わせることで、グローバルなサプライチェーン管理を実現しています。

国内工場では伝統的なかんばん方式を基本としながら、海外拠点ではMRPを活用した計画的な資材調達を行っています。

この組み合わせにより、「かんばん方式の柔軟性」と「MRPの計画性」の両方のメリットを活かすことに成功。特に海外サプライヤーとの取引において、長いリードタイムに対応した効率的な在庫管理を実現しています。

【P社のERPシステムによる生産改革事例】

オンプレミス型のMRPを選択し、SCM改革の一環として生産管理システムの刷新に取り組みました。

特に家電製品における季節変動の大きな需要に対応するため、自社の特性に合わせたカスタマイズを行い、需要予測とリンクしたMRPの活用を推進。

導入前は各拠点での在庫管理が個別に行われ、全体最適化が困難でしたが、システム導入後は全拠点の在庫状況をリアルタイムで把握し、効率的な在庫配置が可能になりました。

これにより、在庫回転率の向上と欠品率の低減を同時に達成しています。

このように、各企業が自社の特性や課題に合わせて最適なMRPシステムを選択し、具体的な成果を上げています。特に注目すべきは、単なるシステム導入ではなく、既存の強みと組み合わせた独自の活用方法を確立している点です。企業規模や業態に関わらず、適切なシステム選択と運用方法により、MRPの効果を最大限に引き出すことが可能です。

よくある質問(FAQ)

MRPを導入する際には、初めての方が抱きやすい疑問がいくつかあります。ここでは、よくある質問とその回答を通じて、MRP導入に関する不安を解消していきます。

Q1:既存システムとの連携は可能でしょうか?

A:MRPは基本的に他のシステムと連携できるよう設計されており、特に会計システム(原価管理や予算管理)、生産管理システム(作業指示や進捗管理)、在庫管理システム(在庫データのリアルタイム反映)、購買システム(発注業務の自動化)といったシステムとの連携が一般的です。

ただし、連携する際には、データ形式の統一や更新タイミングの調整、セキュリティ対策、バックアップ体制の整備といった点に注意が必要です。

Q2:中小企業でも導入は可能でしょうか?

A:中小企業でもMRPの導入は十分に可能であり、組織の柔軟性を活かして効率的な導入が期待できます。

まず、Excelベースの簡易的な運用から始め、段階的に業務プロセスを最適化していく方法が効果的です。また、クラウド型MRPを活用すれば初期投資を抑えられるため、コスト面の負担も軽減できます。

必要な機能から順に導入していくことで、無理なくMRPの効果を得ることができるでしょう。

Q3:導入後の運用体制はどうすればよいですか?

A:導入後の効果的な運用体制には、組織体制・教育体制・評価体制が重要です。

まず、組織体制として、システム管理者や部門ごとの責任者を選任し、データ更新のルールを明確化します。

次に教育体制では、定期的なトレーニングやマニュアルの整備・更新を行い、問題解決のプロセスを確立することが大切です。

最後に評価体制として、KPIを設定し定期的にモニタリングしながら、改善提案を収集・実施し、必要に応じて見直しと最適化を行います。

まとめ

資材所要量計画(MRP)は、製造業における在庫管理や生産スケジュールの効率化に欠かせない仕組みです。この記事では、MRPの基本概念や導入の目的、具体的な手順、活用方法に加え、メリットやデメリットについても解説しました。

適切なMRPの導入と運用により、過剰在庫の削減や納期の遵守、生産効率の向上など、多くの利点を得られます。

一方で、システム導入にかかるコストや正確なデータ入力の必要性といった課題もあるため、企業のニーズに合わせたシステム選定と準備が重要です。また、部門間の連携とコミュニケーションを強化することが、導入効果を最大化するための鍵となります。

MRPはSAPなどのERPシステムと連携することもでき、企業全体での生産計画と在庫管理を一元化することで、現場の状況に応じた柔軟な対応が可能になり、競争力の向上にもつながります。

導入を検討する際には、自社の生産規模やリソース、課題に適した手法を見極め、効果的に活用することが成功のポイントとなるでしょう。効率的で無駄のない生産体制を構築するために、MRPの導入をぜひ検討してみてください。

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