活発なコミュニティの構築は、企業にとって最も効果的な成長戦略の一つです。
しかし最適なコミュニティ・マネジメント(コミュニティ運営)の手法は、未だに経営トップから現場に至るまで、正確に理解されずにいます。なぜでしょうか。
いくつか理由がありますが、最たる理由はコミュニティのあり方が、過去数年で大きく変化したからだと、私たちは考えています。
コミュニティ自体は何千年も存在していて、その定義に大きな変化はありません。しかし、ここ数年のスマートフォン普及によるコミュニケーション革命や、リモートワークによる働き方の大変革により、コミュニティはよりデジタルに、そしてより身近で多様になりました。
コミュニティ・マネジメントも同様に、この大きな時代の変化の中で手法が見直され、毎日のように新しい手法や事例が試行錯誤されています。
このガイドは、私たちSankaが過去数年にわたり行ってきた、何千時間にも及ぶ研究とクライアントワークから得たインサイトの集大成です。
コミュニティマネジメントに関するすべてのトピックをカバーしていますので、記事としては長くなりましたが、多くを学べる楽しい旅になることを願っています。
コミュニティ・マネジメントとは
「コミュニティ・マネジメント」とは、多種多様なメディア(ソーシャルメディア、ニュースレター、イベントなど)を活かして、顧客、見込み客、ファン、パートナー、インフルエンサーなどからなるコミュニティを構築し、事業成長を促す実践的な手法を指します。
より噛み砕いて説明するなら、ソーシャルメディアの管理を効率化して、事業成長に貢献するようなものだと、とりあえずは考えて頂ければと思います。
通常のSNS運営と比較して、コミュニティ運営は大きく二つのメリットをもちます。
まずはコミュニティ運営では、基本的にソーシャルメディアをまたいだ、統一されたプロフィールでメンバーとのコミュニケーションを取ることが前提となります。
こうすることで、大事な顧客やインフルエンサーからの問い合わせを優先対応できたり、二度手間になるコミュニケーションを省くことができます。また、分析も今までSNSごとに切っていたものを、メンバーごとに分析を行うことができるので、より正確なレポーティングが可能です。
さらに、コミュニティのデータを企業のシステム(データベース、CRMなど)と統合することで、SNSデータと顧客データをマッピングできます。
これにより、コミュニティを運営する企業は、ただ単にSNSを運営するのではなく、自社ブランドをフォローしてるユーザーの LTVを測って運営に対するROIを算出するなど、施策による事業インパクトを明確にしています。
コミュニティ管理のメリットやSNS運営との違いについては、以下の章でより詳しくお話ししたいと思います。
今ではスタートアップからグローバルブランドまで、あらゆる業態や規模の企業がコミュニティ・マネジメントを採用されています。
しかし多くの経営陣やマーケターやは、コミュニティの構築・運営を最も困難なタスクの1つと認識しています。
なぜなら、今日のコミュニティ活動はオンライン、オフライン問わず様々な場所やプラットフォームで行われており、顧客の要求や行動パターンも急速に進化しているからです。
しかし、実行がいかに困難とはいえ、冒頭で話した通り、コミュニティは何千年も前から存在しており、コミュニティ運営の基本は、何年も前から変わっていません。
コミュニティ運営の基礎、そして最終的なゴールは、コミュニティ・メンバー(ファン、顧客、フォロワー、見込み客、パートナー、その他のステークホルダー)にとって、「価値ある体験」を届けることです。
「価値ある体験」は様々な形で生み出すことができます。例えば、同じ志を持つ人たちが集まるSNSグループや、業界のトレンドについて学び合うZoomセッションなどから始めてみてもいいでしょう。
コミュニティ・マネジメントは、すべての組織が実行できるものはありません。上述した通りコミュニティに関するニーズは常に変化しており、価値ある体験を構築するには長期的な人的投資が求められます。
しかし同時に、コミュニティの構築は、大きなブランドやグローバル企業だけのものでもありません。どんな組織でもコミュニティを中心とした事業成長を実現することが可能です。
以下の章でコミュニティ・マネジメントの実践的な方法を学んでいきますが、その前に、まず、基本的なコンセプトや用語を学びましょう。
基本用語とコンセプト
コミュニティ・チャネル
コミュニティ・チャネルは、コミュニティメンバーが集まってコミュニケーションをとる場所です。プロジェクトを進めたり、アイデアを共有したり、コラボレーションでしたりと、コミュニケーションの内容に制限はありません。
コミュニティ マネージャーとしての最も重要な仕事の 1 つは、自分のコミュニティに最適なチャネルを特定することです。メンバーはどのソーシャル メディアを最も使用しているか?どのくらいの頻度でコミュニケーションをとっているか?など、コミュニティを作る前に、これらの質問に答える必要があります。
コミュニティの傾向をよく理解したら、チャネルを確保し、初期メンバーの招待を開始できます。人気のチャネルをいくつかご紹介します。
- ソーシャルメディア: Facebook, Twitter, Instagram, Tiktokなど
- チャット: Discord, Slack, Telegramなど
- フォーラム: Discourse, WordPressなど
- ニュースレター: Mailchimp, Substackなど
- オフライン: イベント会場、オフィスなど
コミュニティ チャネルが稼働しはじめたら、メンバーのエンゲージメントを維持することが重要になってきます。
コミュニティの活動を定期的にチェックするなどして、メンバーが何を必要としているかを理解しコミュニケーションの方法をチューニングする必要があります。
コミュニティ・メンバー
コミュニティメンバーは、コミュニティを構成する人々のことを指します。
近年オンラインでのコミュニケーションが多様化しており、メンバーがコミュニティと交流する方法も多岐に渡ります。
アカウントをフォローするなどのカジュアルな関係から、プロジェクトへの積極的に貢献するまで、様々な形を想定する必要があります。
そこでコミュニティ運営ではメンバーシップをデザインし、メンバーの管理を容易にするのですが、メンバーシップに関しての説明は以下の章で説明していきたいと思います。
【違いとメリット】コミュニティ運営 vs ソーシャルメディア運営
コミュニティの運営とソーシャルメディアの運営はしばしば同じ意味で使われ、実際に似たような特徴もありますが、この二つの手法は、全く異なる意味をもちます。
どちらのアプローチにも独自の長所と短所がありますが、私たちはコミュニティの運営はSNSの運営と比べて、はるかに大きな事業インパクトをもたらすと考えています。
別の言い方をすれば、私たちSankaは、コミュニティ運営をSNS運営の進化系と認識しています。
これは、今日最も成功している企業が、最も強力なコミュニティを持つ企業であるという事実によっても証明されているでしょう。
この章では、コミュニティとSNS運営のの違いと、前者がどのようなメリットを持つのかについてお話ししたいと思います。
コミュニケーションの場所
ソーシャルメディアとコミュニティの違いは、コミュニケーションが行われる場所に現れます。
ソーシャルメディアの運営は、名前が示すように、Twitter や Facebook などのソーシャルメディアを活用してオーディエンスにリーチし、購買活動に影響を与えたり顧客サポートを実施することに重点を置きます。
一方コミュニティの運営は、特定のオンラインプラットフォームや方法論に制限はなく、SNSだけではなく、モバイルアプリ、SaaS、ウェブサイト、ニュースレター、オフラインなどプラットフォームに制限されません。
極端な話コミュニティの構築に(もちろん便利ではありますが)SNSは必須ではありませんし、オフラインの施策だけでも十分に良質なコミュニティを運営することは可能です。
関係構築の対象
もう 1 つの大きな違いは、目的です。ソーシャル メディアの管理は、各SNS上でオーディエンスとの関係を構築することを目的としています。
一方、コミュニティ運営の目的は、企業とメンバーとの関係だけではなく、メンバー間同士の関係を構築を支援することに重きをおきます。
ここでいう「メンバー」は顧客、ファン、従業員、投資家、インフルエンサーなど幅広い層の人々を含み、コミュニティの中で企業に関するコミュニケーションが理想的な形で、かつ自発的に行われることがゴールと言えるでしょう。
まとめると、1. コミュニケーションの場所 そして2. 関係構築の対象が、コミュニティ運営の場合、SNSと比べてより範囲が広いと覚えていただければと思います。
次にコミュニティ運営のメリットについて見ていきましょう。
ソーシャルメディア運営の効率化
まずはソーシャルメディア運営効率から見ていきます。
SNS運用をしたことがある方なら理解いただけるかもしれませんが、ソーシャルメディア上で行われるメッセージやコメントのやり取り、レポーティングは、ある程度の規模感から非常に煩雑なものとなります。
また、近年ソーシャルが多様化しており、ショートビデオ、写真、テキストなどメディアのフォーマットも分化が進んでいます。
コミュニティ運営では、複数のSNSアカウントを一つの「企業コミュニティ」として管理し、分析、メンバー管理、コメント対応、コンテンツ投稿までを一元管理、効率化します。
アカウントを1箇所にまとめることで、管理コストが極端に減るだけではなく、より高い質のコミュニケーションを行うことができます。
SNSコミュニティのROIを可視化、最大化
トラッキングが発達した今のデジタルマーケティングでは、SNS広告や投稿に付随したリンクからの集客データはすでにトラッキングが可能です。
ただしSNS上でのエンゲージメントと顧客価値がどのように連動しているかは、いまだにブラックボックスの状態です。
最先端のコミュニティ運営では、コミュニティメンバーのデータと企業データ(CRM、データベース)を統合し、LTVなど指標を算出します。
SankaではSNSでエンゲージメントがあったユーザーと顧客データをマッピングし、どのようなコミュニティ活動が売上に直結するかを可視化する支援を行なっています。
コミュニティ運営の相性がいい部署と目的
コミュニティ・マネジメントは昨今注目を集めている分野であり、それには十分すぎる理由があります。
うまく管理されたコミュニティは、熱狂的な顧客ベースを作り出し、競合他社に対する強力な差別化要因を生み出すでしょう。
そこで、この章ではコミュニティ・マネジメントと相性がいい企業の部署とそのゴールを紹介していきたいと思います。
数多くある領域のうち、以下の内容を事例とともに話を展開しようと思います。
- 製品・サービス開発
- 営業・カスタマーサクセス
- マーケティング・広報
- サポート
部署:製品・サービス開発
目的:製品・サービスに関する深いインサイトの獲得
Appleの熱狂的なコミュニティメンバー(ユーザー、顧客、レビュワーなど関わり方は多様であるが)は、Appleに事業ロードマップを定義するための、優れた学習機会を与えてくれます。
Appleは世界中にあるGenius Barで、こうしたメンバーからのフィードバックを顧客属性と共に吸い上げ、次のiPhone開発に繋げるアイデアを収集しています。
製品やサービスの開発において、顧客の意見は必須です。プロダクトコミュニティを作ることで、フィードバック回収期間を短くし、改善や新商品発表のサイクルを短縮することができます。
部署:営業・カスタマーサクセス
目的:顧客のエンゲージメントとロイヤリティを向上
店舗決済のグローバルリーダーSquareは顧客コミュニティと積極的に関わることで、コミュニティメンバーのエンゲージメントを高め、メンバーが提供するサービスや製品などに関心を持ち、ブランドに好意を持つように動いています。
このコミュニティはSeller Communityと呼ばれ、イベントやオンラインフォーラムを通して、顧客同士が問題を解決することで、顧客満足度やリテンションに繋がっています。
ロイヤリティが高い顧客は結果LTVが高まり、企業の利益に直結するような施策になります。
部署:マーケティング・広報
目的:オピニオン・リーダーシップとブランドの強化
コミュニティ・マネジメントは、企業のポジティブなイメージ作りにも役立ちます。
最近では世界的なブランド、パタゴニアの創業者イヴォン・シュイナード氏が、同企業の所有権を、トラストと非営利団体に譲渡したことが話題になりました。
この動きはパタゴニアのコミュニティだけではなく、環境問題に興味を持つ数多くのコミュニティから好意的に受け入れられ、認知活動やブランディングに直結しています。
パタゴニアのような規模ではなくとも、社会が抱えるイシューに対する解決案をコミュニティやそこに属するインフルエンサーに提示することにより、その業界のオピニオンリーダーと見なされるでしょう。
部署:サポート
目的:サポートコストの削減
SEOのツールを提供するAhrefsではツイッターやFacebook Groupsを活用したコミュニティ運営を行なっています。
このコミュニティでは、同企業のツールだけではなく、SEOの始め方やトラブルシューティングなど、幅広く語られています。
これはサポートコミュニティと言われる手法の一つで、顧客と顧客の関係を構築・改善し、カスタマーサポートの効率を根本的に改善し、サポート提供のコストと時間を削減することができます。
この記事では、上記のコミュニティ・マネジメントの利点についてより詳しく取り上げています。ご興味があれば、ぜひご覧ください。
AMEモデル - コミュニティ運営のプロセス
これまでの内容で、コミュニティ・マネジメントが企業にとって素晴らしい結果をもたらすことは、ご理解いただけたと思います。
しかし、コミュニティの運営には、恒常的なメンテナンスや活動が求められます。
コミュニティはデータのように固定されたものではありません。メンバーやそのニーズ、コミュニケーションに最適なチャネルは常に変化しています。
つまり、現在コミュニティを活性化するために使っている戦略は、コミュニティの変化に合わせて常に調整する必要があるのです。
他のビジネス・プラクティスと同じように、コミュニティ・マネジメントも戦略的にアプローチすることで、その効果を発揮します。
Sankaでは、コミュニティ・マネジメントを企業の経営戦略レベルで活用できるよう、AMEモデル アナリティクス、メンバーシップ, エンゲージメント というプロセスを開発し、クライアントに提供しています。
以下では、AMEモデルの各役割について、簡単に説明していきたいと思います。
アナリティクス
まず、コミュニティ・アナリティクスでは、コミュニティの成長、ニーズ、不満、感情を詳しく測定し、コミュニティに対する理解を深めます。
コミュニティの声に耳を傾け、メンバーが直面している問題をよりよく理解するためにアンケートをとったり、インタビューをすることで知見をためていくことが重要です。
また、企業でコミュニティを運営する場合は、他部署へのレポートなど、コミュニティの数値・KPIの把握や出力が必要となります。
メンバーシップ
コミュニティ運営の肝は、コミュニティ・メンバーシップの価値を定め、それをメンバーに提供することです。(そうでなければ、コミュニティの一員であることに何の意味があるのでしょうか)。
コミュニティのメンバー限定でイベントを開催するような気軽なものでも、コンサートのVIPチケットを提供するような特別なものでもいいでしょう。
重要なことは、コミュニティの一員にとって、自分の役割、義務や責任、そしてメリットが明確になるように、コミュニティをデザインすることです。
エンゲージメント
コミュニティ・マネージャーとして、あなたの一番の仕事は、コミュニティのエンゲージメントを維持することです。
エンゲージメントとは運営者とメンバー、そしてメンバー同士の関係性を指し、うまく運営されているコミュニティは、エンゲージメントの管理が非常にきめ細かにされています。
コミュニティ・エンゲージメントを維持するための2つの原則は、1)一貫したコミュニティ活動を行うこと、そして2)コミュニティの声に耳を傾け、常にレスポンスを取ることです。
もし、あなたが新しい製品やサービスを発表するときだけに、コミュニティにアプローチしているのであれば、コミュニティはあなたの活動に興味を持たなくなるでしょう。
コミュニティは、企業のためにあるのではなく、メンバーのためにあることを忘れないでください。
AMEプロセスを上手く回して検証していく中で、コミュニティの価値を高め、企業成長に貢献することが出来ます。
コミュニティを軸に事業成長を進めることは CLG(コミュニティ・レッド・グロース) と呼ばれ、世界中で注目を集めてます。詳細はリンクの記事を参照してください。
さて、プロセスについて学んだので、次に具体的な試作例を見ていきましょう。
コミュニティ運営のための実践的なアドバイス
私たちは、これまで多くのクライアントのコミュニティの構築と運営を支援してきました。
その中で、コミュニティ運営を成功に導く実践的なノウハウを蓄積してきました。この章ではそれらの一部を紹介していこうと思います。
- コンテンツを活用する: マーケティングの世界では「Content is King」とよく言われますが、同じことがコミュニティ運営にも言えるでしょう。ブログで進捗状況をコミュニティメンバーに共有したり、コミュニティイベントの写真やビデオを撮るなど、コンテンツを軸にコミュニティの活性化を狙うことができます。
- メンバーシップを魅力的にする: コミュニティのメンバーになる特典やメリットを明確にすることは非常に重要です。当然のように聞こえるかもしれませんが、数少ないコミュニティしかメンバーシップのデザインを正しく行えていないのが現状です。
- メンバーの問題を解決する:コミュニティメンバーは常に(顕在的、潜在的な)問題を抱えています。これは、運営者にとっては大きなチャンスとなります。エンゲージメントを高める効果的な方法の一つは、メンバーの問題を聞き出して、解決してあげることです。
- コミュニケーションの頻度に気をつける:すべてのコミュニティ・チャンネルをアクティブになるよう管理する必要はありますが、誰もスパムを求めていません。理想は運営者が管理するよりも、メンバーがコミュニティを自走できるようにすることです。
- 悪いニュースも共有する: 「良い知らせだけ」というのは、多くの場合、赤信号です。メンバーに対して透明であることは、コミュニティ運営を成功させるための重要な要素です。失敗を隠すのではなく、失敗を認め、そこから学びましょう。 コミュニティのメンバーは賢いので、どうせ見抜きます。
- 質問する: コミュニティメンバーのエンゲージメントを高めるためには、質問をするのが一番です。質問をすることは会話を始めるのに最適な方法であり、コミュニティについて興味を持ってもらうための糸口となります。
- 分析する: これも当たり前の話ですが、ソーシャルメディアやその他のコミュニティ・チャンネルの変化や利用度をに目を配り、どのようなコンテンツが求められているのかを理解するることが重要です。(詳しくは コミュニティ・アナリティクス を参照)
- 繰り返し行う作業を自動化する: コミュニティに関わるオペレーションを自動化することで、コミュニティのチャネルを毎日アクティブに保つことができるようになります。
おわりに
この記事が、コミュニティ・マネジメントの理解と実行のお役に立てば幸いです。
コミュニティ・マネジメントが正しく行われれば、企業はリーチを拡大し、商品を改善し、コストをカットし、さらには売上を伸ばすことができるでしょう。しかし何度も話した通り、実際にコミュニティを上手く運営できる企業は多くありません。
次のステップとしては、コミュニティの構築をはじめてみることをおすすめめします。
なぜなら、実際に「コミュニティをやってみる」ことが、コミュニティ・マネジメントを習得するための最速の方法だからです。
コミュニティに関して課題を抱えている時は、いつでもご連絡ください - Sankaはコミュニティをサポートするためにあるのですから。